スペシャリスト vs JMSCA五輪強化選手
ハイレベルな競演の行方は?

2020年は、国内主要大会のうちスポーツクライミング3種目の中の2つであるボルダリング(BJC)とスピード(SJC)のジャパンカップ開催を2月に終えました。そして迎えるのが、この第33回リードジャパンカップ(LJC)です。LJCの位置付け、今大会の注目選手などを紹介します。

リードとは?

リードは東京2020オリンピックで実施されるコンバインドの3種目のうち、最後に競技が行われ、勝敗の行方を握る種目です。高さ12mの壁に配置された40~50手前後のホールドを登っていくため、持久力が問われます。試技は1回のみであり、制限時間も6分間と限られているので、事前のオブザベーション(コースの下見と戦略作り)を含め、いかに効率良く登っていくかが重要です。

BJC、SJCを終えて

BJC2020表彰台

BJC2020表彰台

SJC2020表彰台

SJC2020表彰台

2月に行われたBJCとSJCを簡単に振り返りましょう。まず男子は、BJCでは決勝初進出の選手が6人中4人を占め新しい風が吹き込む中、実力者の原田海選手が劇的な逆転勝ちで初優勝。SJCは土肥圭太選手が強風吹き荒れるコンディションの死闘を制し、オールラウンダーとしての強さを発揮しました。そんな中、楢崎智亜選手はともに準優勝と抜群の安定感で、東京オリンピック代表内定者として存在感を見せつけました。女子は、伊藤ふたば選手がBJCとSJCの両方で優勝し、野口啓代選手と野中生萌選手の2強に完全に割って入った形に。18歳の伊藤選手は名実ともに日本のトップ選手に上り詰め、新たな時代が始まる予感がします。

日本は近年リード大国に

W杯2019印西大会で優勝した清水裕登選手

W杯2019印西大会で優勝した清水裕登選手

日本チームはここ数年、ボルダリングでは世界トップレベルでしたが、リードはヨーロッパ諸国に今一歩届かない状況が続きました。しかしリード代表勢も選手層が厚くなり、2019年のW杯では優勝者や表彰台に乗る選手が数多く登場し、6年ぶりに国別ランキングで首位を獲得。国内の競争も激しくなり、世界的に見てもリード大国へと変貌しつつあります。

予選大会「ジャパンツアー」開催

他のジャパンカップ同様、今年度はLJCに無条件で出場できる優先選手は男女各20人となり、その他の選手は出場資格を得るために予選となる「SPORT CLIMBING JAPAN TOUR(ジャパンツアー)」に参戦することになりました。ジャパンツアーにおいてリードは昨年5月~10月にかけて全5戦が行われ、上位2大会の合計ポイントが高い男子40人、女子30人がLJCへの出場権を獲得しました。BJCでは男女ともにジャパンツアーからの勝ち上がり選手が決勝に進出しており、LJCでも彼らが上位に食い込んでくる展開は十分に予想されます。

今大会の注目選手は?

今大会の見どころを挙げるならば、男子は「リードのスペシャリストvsオリンピック強化選手」、女子は「野口選手の安定感に対し、森秋彩選手と谷井菜月選手の勢いが勝るか」となるでしょうか。

日本人男子は昨年、リードの国際舞台で大躍進しました。西田秀聖選手と清水裕登選手はそれぞれW杯で優勝を経験し、田中修太選手、本間大晴選手、波田悠貴選手らリードのスペシャリストたちも表彰台や決勝進出を果たすなど、大会ごとにスターが生まれた印象です。また、樋口純裕選手や是永敬一郎選手といった過去にLJCやW杯で大活躍したベテラン勢の復活にも期待が高まります。ただ、彼らに対抗するようにオリンピック強化選手たちも3種目ともに仕上がりつつあり、リードのレベルも高水準に達しています。昨年大会の覇者である藤井快選手、今年のBJCを制しリードも絶好調である原田選手、そして楢崎智亜&明智兄弟といずれの選手も優勝候補になり得ます。

W杯2019ブリアンソン大会で優勝した西田秀聖選手

W杯2019ブリアンソン大会で優勝した西田秀聖選手

アジア選手権2019で2位と活躍した田中修太選手

アジア選手権2019で2位と活躍した田中修太選手

前回大会王者・藤井快選手

前回大会王者・藤井快選手

東京五輪内定の楢崎智亜選手

東京五輪内定の楢﨑智亜選手

一方の女子では、前回王者の野口選手に安定感があり、昨シーズンもW杯で準優勝を果たすなど、オリンピックに向けてより一層リードの力も付けてきています。これに対して、2003年生まれの森選手と谷井選手の勢いが勝るかが見どころです。森選手は世界選手権2019でリード世界一の実力を持つスロベニアのヤンヤ・ガンブレット選手と互角の争いを繰り広げ、世界にその名を轟かせました。谷井選手もW杯で安定して決勝に進出し、年間ランキングでは日本人トップの3位に位置付けました。この3人による優勝争いに、同じく若手のホープでリードを得意とする平野夏海選手、ボルダリングに強みを持つ野中選手や伊藤選手あたりがどう絡んでくるかに注目です。

前回大会王者・野口啓代選手

前回大会王者・野口啓代選手

世界選手権2019で3位と健闘した森秋彩選手

世界選手権2019で3位と健闘した森秋彩選手

W杯2019で年間3位に輝いた谷井菜月選手

W杯2019で年間3位に輝いた谷井菜月選手

地元の盛岡開催で今季国内3冠を狙う伊藤ふたば選手

地元の盛岡開催で今季国内3冠を狙う伊藤ふたば選手

新型コロナウイルス感染症の影響、対策

今大会は本来、3月7・8日に埼玉県加須市で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期、再延期となり、岩手県盛岡市での開催となりました。感染症対策として無観客かつ例年より1日多い3日間での実施となり、選手も体温測定や個人ロープの使用等を義務付けられています。このような環境下での大会ですが、ぜひこの機会に中継を通した観戦をお楽しみいただければと思います。放送では、課題の解説や選手のテクニック紹介など、ふだんの会場では聞けない情報を知ることができるほか、ここぞという場面での選手の表情なども視聴できます。今大会では、画面を通した選手への応援をよろしくお願いいたします。

文:植田幹也
写真:JMSCA/アフロ