大会オフィシャルプログラムに収録する、前回チーフセッターに聞く大会の見どころ、前回男女優勝者インタビューを特別公開します。
前回チーフセッター・平松幸祐氏に聞く
日本のトップ選手が一堂に会するボルダリングジャパンカップ(BJC)。その勝負の行方を左右するのが、ルートセッターが作る課題の難易度だ。前回大会のチーフを務めた平松氏に、今大会の注目ポイントを聞いた。
-- チーフセッターとして携わった前回大会から1年が経ちましたが、あらためて振り返ると?
「僕の中では『やり切れた』と感じています。自分がいいセットをしたというより、チームを束ねて、しっかりといい判断ができたのかなと。他のメンバーには反省点もあったようで、彼らの半分がセッターチームに入っている今大会はどういう展開になるのか期待したいですね」
-- 前回決勝は男女とも優勝選手だけが完登した課題があり、ドラマチックな展開になりました。
「時間も意識も、セットの比重の半分近くは決勝に費やしました。個々のセッターの能力も高いので、結果は蓋を開けてみないとわからないんですけど、準備段階からそういうドラマが見られるんじゃないかとある程度は想像できていました」
-- 今大会の注目ポイントを教えてください。
「前回の僕個人のテーマに『女子の準決勝を面白くしたい』というのがありました。BJCの準決勝はファイナリスト6枠に入るための“戦場”で、決勝とはまた違うものすごい熱気があるんです。特に男子は課題が非常に難しくなかなか完登が出なかったりして、競技順の1番から20番までみんな面白い。ただ一方、セッターもそれを演出するのに時間も人も男子課題に費やすことが多く、女子準決勝は少しウエイトが低いところがあったんです。それを変えたいと思って、去年は力の入れ具合を準決勝も男女半々のイメージでやりました。今年どうなるかはわかりませんが、過去に女子準決勝では少なかった『完登者が出ないのでは』と思わせるような難しい課題が出てくるのか、注目したいです」
-- 個人的に注目している選手はいますか?
「17歳の川又玲瑛(れい)選手です。安間佐千(さち)君、楢﨑智亜選手、そして川又選手と“栃木のチャンピオンロード”が描かれているのかと思うくらい、不思議と彼にはそういう素質を感じます。昨年の『Top of the Top』や『コンバインドジャパンカップ』では、プレッシャーの少ない選手たちが気負いなく楽しんでいました。川又選手はそれに近い気がします。どっしりした感じで気負いがないと、クライミングしている姿がかっこよく見えるんですよ」
-- セッターにとってBJCとはどんな大会でしょうか?
「以前は今と比べると緩い大会だったんですよね。でも選手のレベルがすごく上がってきて、日本代表の選考大会にもなりましたし、スポンサーも増えて、会場の規模も大きくなった。セットの重要さも年々増していると感じます」
-- 日本代表選手などに与えられる優先出場権のない選手は、ジャパンツアーを通過しないとBJCに出場できなくなりました。
「僕らセッターにも『(BJCに)選ばれたんだ』という気持ちがあります。ボルダリングの国内最高峰の大会で、8人しかセットができないわけですから。僕がチーフを務めた時は『セッターチームに加わりたい』という声をすごく聞きました。これほどの大会は、日本ではBJC以外にないと思います。選ばれたメンバーには全力を発揮する使命感のようなものがあります。セッターもそれほどの意気込みでBJCに臨んでいます」
東京五輪への道は潰えた。しかし18歳の女王はすでに前を向いている。辛い時期を支えてくれた人たちのためにも、恩返しの大会連覇を狙う。
-- 1年前の大会後には、初優勝した2017年と比べて『実力で優勝できた』とコメントされていました。あらためてどこに成長を感じましたか?
「最終4課題目の『完登すれば優勝』というシチュエーションで狙い通りに完登して優勝できたのは、メンタル面や、登れる課題をしっかり登り切る力がついたからだと感じています」
-- メンタルもフィジカルも成長できた。
「2017年の時はまだ中学生で、本当にガリガリだったんですけど、上半身も下半身も筋肉がついてうまく体を作ることができました」
-- 今大会、前回女王のプレッシャーはありますか?
「そこまではまだ感じていません」
-- 楽しみという感じ?
「楽しみなのもありますし、久々のボルダリングの大会ということもあって緊張します」
-- 今の仕上がり具合はいかがでしょうか?(このインタビューは1月14日にオンラインで収録)
「悪くないとは思うんですけど、大会に出ていないと今の自分の調子がわかりづらいですよね。練習で調子が良くても、大会で実力が出せるかはまた別だったりするので。調子が上がっていたとしても、コンペでしっかり登れるかな、少ないトライ数で登れるかな、緊張してできなくなっちゃいそうだなって不安になっちゃいますね(笑)」
-- 今大会の目標は?
「もちろん優勝したいです。2連覇を目指します」
-- 昨年12月に五輪代表の選考問題が決着し、伊藤選手には難しい時期もあったと思いますが、すでに気持ちは切り替えられているように見えます。
「CAS(スポーツ仲裁裁判所)の裁定が出た時は、落ち込んで練習にも身が入らないような感じだったんですけど……。『これからもずっと応援しているよ』というメッセージとか、一緒に悔しがったり泣いてくれる人たちがたくさんいて、自分は本当に周りの人に応援してもらってるんだな、支えられているんだなって実感して、感謝の気持ちでいっぱいになりました。結果を出した時に『おめでとう』って言ってくれる以上に、そういう言葉をかけてくれることが本当に嬉しくて。そういう人たちがいるからこそ『いつまでもくよくよなんかしてられないな』と思って、今は2024年のパリ五輪に向けてトレーニングを始めています」
-- 2021年はどんな年にしたいですか? 気持ちを新たにチャレンジしていく「始まりの年」というイメージでしょうか。
「そうですね。パリに向けたスタートの年だなっていう気持ちはすごくあります。気持ちを切り替えて、さらに強くなっていきたいです。まずはコロナ禍が収まって、また国際大会などに出場できるようになればいいですし、去年作り上げてきたものが世界でどこまで通用するのか早く見てみたいです。今後がどうなるのかまったくわからないので難しいですけど、大会があったとしてもなかったとしても、強くなり続けたいです」
公言通りのボルダリングジャパンカップ優勝から1年。選考問題を経て東京五輪代表に内定した21歳の新年初戦に注目だ。
-- 2020年大会は「優勝を狙っている」と公言されていた通りの結果になりました。あらためて振り返ると?
「前から掲げていた目標を果たせたので、達成感は過去一番くらい大きかったです。何カ月も前から、自分を奮い立たせるように『優勝する』と周りに言っていました。そういうことはいつも言わないんですけど、それくらい優勝したいと思っていました。世界選手権で優勝(2018年インスブルック大会)したのに日本では勝てていなかったですし、(同じ種目で)世界選手権、ジャパンカップ、W杯の3つすべてで優勝している選手がまだいないんですよ。(原田以外に日本人で世界選手権を制した楢﨑)智亜くんもまだBJCでは勝てていない。僕はBJCを取れば、あとはW杯だけになることもあって狙っていました」
-- BJCは原田選手にとってどんな大会ですか?
「うーん、あまりいいイメージはないですね。これまで6回出場して、半分は予選落ちしているので。日本の選手層は厚いですし、(その年のW杯代表選考を兼ねている)この大会で上位を逃すと1年間代表に選ばれないことを考えたら、W杯以上に気合いが入ります。他の選手もそうだと思うんですけど、普段以上にプレッシャーが大きい大会ですね」
-- 今大会はどのような気持ちで臨みますか?
「正直、また予選落ちするんじゃないかと内心では思っています。コロナ禍や五輪代表選考問題によるストレスもあり、12月はほとんどクライミングを休んでいました。しっかりとしたトレーニングを再開したのは今年に入ってからです。もちろん、その時にできる限りの力を出したいと思っていますが、周りの選手は調整が順調で調子が良いという話を聞くので、自分は予選敗退でもおかしくないなと感じています」
-- 今大会の目標は?
「シーズン本番に向けてゆっくりと調整している段階なので、その中で改善点というか、次に繋がるものが見つかる大会になればいいなと思います。でもさすがに予選は通過したいですね(笑)」
-- 大会は無観客開催で、多くの方は画面を通した観戦になりますが、注目ポイントはありますか?
「選手一人一人が全然違う動きをして、ムーブの選択も様々なのが、クライミングを見ていて面白いところです。そこに注目してほしいですね」
-- 2021年の抱負を教えてください。
「コロナ禍が続いている状況ですが、またいつものように大会が開催されるようになって、僕ら選手たちが活躍できる場所が戻ることを願っています。そうなった時は、しっかりと一つ一つの大会に取り組んでいきたいです。いろいろありましたが、東京五輪の代表に選んでいただきました。選ばれなかった他の選手のためにも、選ばれたからには本気で優勝を目指したいです」
写真:JMSCA/アフロ