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ボルダー&リードの日本代表コーチに聞く パリ2024プレビュー

ボルダー&リードの日本代表コーチに聞く パリ2024プレビュー
Photo:© Jan Virt / IFSC

パリ2024オリンピックでのスポーツクライミングの実施種目はボルダー&リードとスピードの2つ。日本人選手はボルダー&リードに男女2人ずつが出場します。

本記事では、8月5~10日にかけて行われるボルダー&リード種目について、日本代表コーチの鈴木友希さんに話を聞きました。

(取材・文/CLIMBERS編集部)
KODATE Morimitsu
Photo:© Lena Drapella / IFSC
プロフィール
鈴木 友希 - SUZUKI Yuki
日本代表コーチ(ボルダー&リード)

1985年1月20日生まれ、東京都出身。
幼少期からクライミングをはじめ、2007年にボルダーワールドカップ出場。13年からはユース日本代表コーチを務めるなど多くのユース世代を指導してきた。普段は株式会社8611に勤務して都内のボルダリングジム「B-PUMP OGIKUBO」の運営に携わっている。

――鈴木さんは都内のボルダリングジムで勤務する傍ら、日本代表コーチとしても活動されています。

「2013年からずっとユース日本代表を担当していましたが、2022年からはシニア代表を任されています。安井博志ヘッドコーチには男子や女子、ボルダーあるいはリードに限るのではなくて、全体を満遍なく見てほしいと言われています」

――ボルダー&リードという種目について教えてください。

「ボルダー、リードの順に競技し、それぞれの成績に応じたポイントの合計点で順位を決めるパリオリンピックのために設けられたフォーマットです。ボルダーは課題と呼ばれるコースが4つあり、それぞれにゾーン1・2、トップとポイントが付くホールドが3つあります。ゾーン1が5ポイント、ゾーン2が10ポイント、トップが25ポイントで、4課題すべてで完登すると(トップに達すると)最大100ポイントを得られます。高い壁に設けられた1つの課題を登るリードは、1手取るごとにポイントを獲得できます。高度が下がるにつれてそのポイントは低くなっていき、落ちた高度によってポイントが付きます。1手につき最大で4ポイントが与えられ、最後まで登り切れば100ポイントです」

――ボルダー、リードそれぞれの魅力を教えてください。

「ボルダーは、スポーツクライミングがオリンピックに採用されたことで課題内容が大きく変化してきています。以前は地味な動きといいますか、何をやっているんだかわからないような動きが多かったんですが(笑)、近年はパルクールのように壁の中で飛んだり跳ねたりするダイナミックな動きが非常に増えました。その中で選手たちがどのようにムーブを繰り出していくかが魅力的なポイントだと思います。リードはボルダーと違って持久力の要素が大きいです。選手が自分の持っている力の限界まで出し切るような姿を見ていると『あぁ、すごい頑張ってるな』と気持ちが伝わってきて、感化されるんです」

――日本代表チームは実力的に世界の中でどの立ち位置にいますか?

「日本はボルダー、リードともに強豪国です。特にボルダーは2014年からワールドカップの国別ランキング1位に立ち続けています。リードも浮き沈みはありましたが近年は力が伸びている傾向にあって、7月のワールドカップでも男子で表彰台を独占したり、女子で優勝したりと、オリンピックに出場しない選手たちが次々と台頭しています」

――日本の強さの要因をどう感じていますか?

「他国はナショナルチームで集まる拠点があり、一緒にトレーニングすることが多いのですが、日本はどちらかというと各地で個別に練習しています。世界と比べると日本はクライミングジムの数が多いですし、なおかつ質の高い様々な課題が用意されているという背景が強さに繋がっていると思います。また、海外の代表コーチはパーソナルコーチのようにしっかりと選手につく傾向がありますが、日本の選手は自立していて、ウォームアップも個々のルーティンで行っています。そこに違いも感じますね」

――そんな強豪国の日本からパリオリンピックにはボルダー&リードに男女4人が出場します。4人ともワールドカップの年間1位または世界選手権で優勝した経験があり、まさに日本を代表するクライマーですよね。それぞれどのような選手でしょうか?

「(男子の楢﨑)智亜はワールドカップ年間優勝と世界選手権優勝に2度ずつ輝くなどボルダーに長けています。海外でニンジャと呼ばれるほどの素早い動きが魅力で、ボルダーに比べるとゆっくり登るイメージがあるリードでもテンポよく登っていきます。東京オリンピックでは4位に終わってしまったので、パリへの思いは強いと思います」

――もう1人の男子代表はワールドカップ初参戦となった昨年に史上初のボルダー、リード両種目で年間1位となった安楽宙斗選手です。

「昨年、突然現れたようなまだユース世代の選手ですが、様々なタイプの課題をそつなくこなしていきます。何かに長けている選手が日本人に多い中で、ボルダーもできるし、リードもできる。特にリードはどの国の選手にも引けを取らない強さを誇っています」

――女子の森秋彩選手は昨年の世界選手権で日本人初のリード優勝を飾りました。

「彼女は小柄なんですが、自分の体格をよく理解していて、自分に合った動きの選択が非常にうまいです。また、我慢強さと粘り強さがあります。一見、なんてことのないように登っていても、我慢しながら登っているのではといつも感心させられます」

――野中生萌選手は2018年にワールドカップで年間優勝するなどボルダーの表彰台常連です。

「生萌の力強い登りは最大の武器ですね。最近はリードにも向いているんじゃないかと思わせるほど、オリンピックに向けて持久力を高めてきています」

――パリオリンピックの競技壁についてどのような印象がありますか?

「ボルダーは左側の垂壁から右側の傾斜約130度にかけて段々と壁が手前に傾いていきますね。ざっくり分けると4つの傾斜の壁に分かれていますが、1つの壁に対して1課題となってしまい、壁と壁の境目を使いにくくなるので、(課題をつくる)ルートセッターの選択肢も狭まりそうです。準決勝も決勝も似たような課題になる可能性があります。東京オリンピックは3課題だったのに対して、今回は4課題が設けられます。壁の大きさはそれほど変わらないはずなので、1つの課題に対して特に横幅は取りにくそうですね」

――リード壁の印象は?

「高さ的には普段の国際大会と同じかなと思う一方で、登攀距離は長いなという印象を受けました。特に強傾斜から少し薄い(緩い)傾斜に切り替わってからの最後のセクションが、いつもワールドカップで使用している壁よりも距離が長いですね。その最終局面に入ってからの勝負がどう転ぶかは1つのポイントだと思います」

――日本チームとしては公開されている壁をもとに対策している状況ですか?

「そうですね。ボルダーは2023年の世界選手権(ベルン)の時と同じで、選手も実際の大会で経験している壁なので、戸惑うことはないと思います」

――メダル獲得への手ごたえは?

「確実にメダルは取るんじゃないかなと。男女で日本人メダリストが誕生して、日本に活躍の報告をしたいですね」

――どういう展開が理想ですか? ボルダーで最低限、何ポイント取りたい?

「女子だとボルダー、リードともほぼ100ポイントを取るぐらいの(圧倒的な実力を持つ)ヤンヤ(・ガンブレット)がいるので、両方とも90ポイント台は取りたいです。男子は、ボルダーは最低でも85ポイント、つまり3完登して残る課題も2ゾーンまでは達したい。リードも金メダルのためには80ポイント台まで持っていきたいですね。実際にどのような課題が出るかで取るべきポイント数は変わってきますから難しいところですけど、どのみちボルダーで確実にポイントを稼がないといけません。そうしなければリードは他の選手の結果次第となってしまい、メンタル的に厳しい戦いを強いられてしまいます」

――日本代表にはボルダーが得意な選手が揃っているので、3完登以上する可能性は十分にありますよね。

「彼らにとっては時間をかければ登れる課題になると思うので、いかに制限時間内で登り切ることが大事になってきます。身長の低い森選手がどうしても苦とする距離のあるコーディネーションムーブではなく、得意のテクニカルなコーディネーションムーブが設定されると理想的ですね」

――オリンピックに向けて日本代表の4人とはどのような会話をしていますか?

「例えばワールドカップのボルダーで完登できたはいいもののアテンプトをかけ過ぎてしまった時は、より少ない回数で登るために違う動きの選択肢を取り入れることを促したりと、最近は技術よりもマインドの話をしますね」

――コーチとして選手と接する際に意識していることはありますか?

「性格が全員違うので、同じことを聞かれても適した答え方は一人ひとり違うと思うんです。選手にとって良いと思う情報はなるべく与えるようにしていて、その上でその人に合った説明の仕方をすることには気をつけています」

――オリンピックは総合競技大会です。普段のクライミングの国際大会などと比べて臨み方は変わりますか?

「オリンピックと聞いただけで別世界な感じがするんですけど、そう思ってしまうと普段と同じことができないと思うので、いつもと同じ心構えで臨むつもりです」

――複合型トレーニングセンターがあるフランス・トロワでの事前合宿や、競技会場近くの施設での練習を検討中だと伺っていました。競技本番まではどのように行動する予定ですか?

「もともとは早めにフランス入りして、それこそトロワだったりパリ近郊のジムだったりで調整していく話がありましたが、ギリギリまで日本でトレーニングしたいという選手が多かったので予定を遅らせました。トロワなどには行かず、競技会場のアイソレーションエリア内にある壁を使用したプラクティスが5日間、本番の競技壁を利用して行われる公式練習が1日あります。この期間を利用して最終調整を行っていく予定です」

――最後に、コーチとしてのオリンピックへの意気込みを聞かせてください。

「日本代表にはしっかりとメダルを取れる4人が揃いました。4人ともメダルを取って日本に帰ってこれるよう、最大限のサポートをしていきたいです」

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